わたしは誰かのどうでもいい人

さっきからあなたの目の前で おとなしく座っているだけの僕

わたしの初めに

人に弱音を吐くのが、相談することが、苦手だ。

 

そもそも、声質や話し方が無機質ではないので、淡々と話し、伝えることに向いていない。怒鳴りたいわけじゃない、涙で声を詰まらせたいわけじゃない、睨みたいわけじゃない、ただ、誰かと話し合いたいだけなのに、互いの感情に揺れる声や仕草のせいで、ただ意思を伝え合い尊重する、それだけのことが、こんなにも難しく、つらい。

 

 

文字に起こすと、嫌なことは嫌だ、好きなことは好きだと、少しだけ、伝えたいことだけが正しく伝わる気がして、嬉しい。

 

 

今日は節分で、一緒に暮らしてくれている恋人が、恵方巻きを作ってくれた。彼女はサーモン、わたしはネギトロの。大きくて、本当に美味しかった。すごく幸せだった。

これから、なにを叶えたいかずっと考えていたら、「人を恨みませんように」という言葉がパッと浮かんだ。

ももいろクローバーZが歌う「誰かのせいにはしたくない でも自分のせいにはしたくない」というフレーズを初めて聴いてから何年経ったのか。幾度となく思い出す。誰のせいにもするつもりはない、したくはないけれど、絶対に自分のせいでもないだろうという過去が多すぎる。

忘れたふりをして生きているけれど、根本の痛みを無視していることへの弊害は大きく、どう消化したらいいのか分からない。金曜日、蓋をしたはずの真っ暗な過去が心をぎゅうぎゅうと握り潰してきて、涼しい顔でパソコンを操作しながら心の中で、繰り返し「首ねぢ切つて捨ててんげり」と唱えていた。向き合っても苦しい、目を逸らしても苦しい。あと何回やるんだ、これ。慢性的に絶望して疲れている。月に何度も発作を起こす。もう終わらせたい、離脱したい、楽になりたいと強く思う。混乱や発作は原因が明らか、持病のせいなので、頓服を飲んで、横になって、一夜をやり過ごす。大切な人たちには自分のことで心配をかけたり悲しい思いをさせたくないし、大切ではない人たちには自分に微塵も興味を持って欲しくない。故に、こんなこと誰にも言えない。言いたくない。

 

19歳くらいから仲良くしてくれている8歳年上の人に、秘密主義だよねと言われた。高校時代の友達から、貴方は予想もしない方へ進むから楽しみだと言われた。昔仲が良かった人に、あなたみたいに強くないから、と言われた。一緒に暮らしてくれている恋人には、存在が柔らかく唯一無二の優しさがあると言われた。

大人びている。賢い。人をよく見ている。あと、何を言われてきたんだっけ。

性格診断、他の箇所は時期によって変わるのに、ずっとずっと、内向型。

矢印が内向きすぎるのは苦しいから、そして自分だけじゃなく誰かを守れる強さが欲しいから、早く外向的になりたい。

 

 

本当は、誰かの大切な人として、誰かのどうでもいい人として、1日でも長く生きていたい。

わたしの2019-04-05

わたしは頭の先からつま先まで心でできているのではないかと半分本気で思う。それほどまでに、まいにちまいにち、この不安定な情緒に左右され過ぎていると思う。

 

 

今日の昼、とうとう、どうしたの?鬱なの?と聞かれた。一緒に行こうよ出かけようよ。行かない、行っておいでよと言っても一緒に行きたい、と、引きこもり防止だ、出かける用意して、と何度も言われ、諦めて分かったうるさいから出かける、と準備を始めたら、嬉しそうにありがと、と言われた。本当はとてもうれしかった。

 

 

何年か前からわたしの心の中には厄介な憂鬱がいる。憂鬱が顔を出すと、なにも出来なくなる、どこにも行けなくなる。無気力と無力感に襲われて、急に涙が止まらなくなったりする。容姿とか、手に入れられたはずの学歴とか、不得意なこととか、とにかく自分の劣っているところにしか思考が行かない。最近は世界一醜い容姿をしているという思い込みが抜けず、自虐、醜い、頭の中をマイナスな言葉ばかりが目まぐるしくとめどなく流れて、酷い頭痛、吐き気、立ちくらみに襲われ、やっぱり自分はどこかおかしいんだなとまた落ち込んで、涙を滲ませながら、早く楽にしてくれなんて本気で思っている。

 

 

今日はそんな精神状態のわたしを心配してか、桜を見に行こう、温泉に入りに行こうなんて言われたのだ。

外出先で、あなたみたいに育ちたかったな、と思わず口をついて出た。

なんで?と言われたので、肌綺麗だし可愛いし彼氏もいるし、頭も良いし、とわたしが思う彼女の長所を一通り並べた。彼女は少し笑って、それってただのラベルじゃん。と一蹴した。

じゃあ私が振られて、肌がボロボロで、頭の悪い学校に行ってたらどうするの?嫌いなの?と聞かれた。

瞬間、答えに詰まってしまった。

嫌いなわけない、好きだよ。と言いたい、好き、本当に。なのに、なぜか、どうしても、そんなもの振り払ってこういう所が好きだよ、と答えることが出来なくて、黙り込んでしまった。わたしは彼女が好きなのではなくて、彼女のスペックが羨ましいだけなのか、私の価値観、そんなに薄かったのか?とてもかなしい気持ちになった。

 

 

一緒に出かけた帰り道、唐突に、メイク上手だし、友達も可愛いね、ってびっくりしてた、酷い容姿してない、と言われた。気をつかっているのか、心配しているのかわからないけど何だかそんなこと言わせちゃって申し訳ないな、と思った。メイクしてたら私いい顔してるんだ、やった~と茶化して言ったら、いや顔つくってなくてもわたしお姉ちゃん好きだし、と言われた。

それでいいじゃん何がダメなの?って顔をしていた。びっくりした。容姿なんてただの入れ物だし、どうでも良くない?自分を磨いててすごいよ私にはできない、と言われた。

なにも言えなくて、笑って誤魔化したけど、真っ直ぐな目と、真っ直ぐな言葉が、本当はとても嬉しかった。とても、とても。

 

母親が車を走らせながら、私たちを見て、「こんなに大きくなるなんて思わなかった、」と言った。「ずっと小さいままかと思ってた。小さい時さ、習い事もずっと頑張ってきたし、偉かったよね」

車窓から見える桜並木がぼんやり滲んでよく見えない。あと何回、母親の運転する車に乗って、この人たちと一緒に温泉に行って、桜を見て、綺麗だねと写真を撮って、あと何回こんな日が来るんだろう。今年受験生の妹が目指す大学は県外。もしかしたら、もしかしたら今日が最後だったんじゃないか。なにかすごく取り返しのつかない時間の使い方をしているような気がして、焦る。あ、今って今しかないんだなあ、と当たり前のことを思う。一分一秒でも長くこんな時間が続けばいいと思うものの、光の速さで毎日は過ぎていくし、時間は戻らない。そうだ、自分の機嫌くらい自分で取らなきゃいけないのだ。車で寝ている妹は帰り道、ずっとわたしの手を離さなかった。どこにも行かないし大丈夫なのに。心配させて、困らせちゃってごめんね。

憂鬱はいつの間にか寝てしまったようだ。手の温かさに、やっと我に返って、明日からまた頑張ろうかな、なんて思ったりする。未成年の最年長。ティーンエイジャーは憂鬱ちゃんよりきっともっと強い。

 

わたしとその人

熱いお風呂のなか、どくどく、激しい動悸に身を委ねながらぼうっとしていたら唐突にその人のことを思い出した。10年近くも同居したというのに他人より他人のようなひと。

 

 

いつでも大きな音量でテレビを見て、だれかが出かけた途端、大きな声で文句を言う。洗濯物のこと。昨日のご飯のこと。お金のこと。つかなくなった電気のこと。

 

わたしはそれが堪らなく嫌で、聞こえる度にその人の部屋のドアを開けて、なに今の、と聞いていた。ねえうるさい、ということもあった。あーはいはい、うるさいね、なんでもありません独り言ですよー。

何だこの人は、と思っていた。

 

一刻も早く出ていって欲しかったし、5人で住んでいても、どこに行っても、何もしても、わたしたちは4人家族だった。

 

 

中学生の頃、その人と言い合いになった。あんたはビョーキだもんね、セイシンビョーだもんね可哀想に、と言われた。ぷつっと何かの糸が切れてしまって、口をついて出た言葉、ぼんやり反芻する。

 

 

「」

 

 

その人は無言で立ち上がって、新聞紙の上に、茶碗を目いっぱい叩きつけた。あ。

あ、たぶんわたし、取り返しのつかないことを言った。でもあなたもわたしに言ったんだ。粉々に散った欠片。バラバラになった硝子、私とこの人の心みたいだなと思った。

 

湯気の向こうに面影を写そうとするけれども、なにも見えなくて、思い出せなくて、1年前、あの人が出ていった日から自室になったあの狭い空間、帰ったら片付けなきゃなあとぼんやり思う。

わたしの17-19

わたしには2つ年下の妹がいる。

顔がかわいくて頭がよくて情緒が安定していて彼氏がいて、誰かと喧嘩をしているところも悩んでいるところもほとんど見たことがなくて、なんというか色んなところが私と真逆。

彼女を見ているとほんとうに血を分け合ったきょうだいなのかと思うことの方が多いけれど、とにかくわたしには妹がいる。

 

わたしは彼女のことが好きだ。

俗っぽくないところが好き。

現役の女子高生なのにツイッターもインスタもティックトックもやらない。

化粧もしない。

色つきのリップクリームを塗って、見て、赤い!と見せに来る。

可愛いものが好きで、イヤリングをたくさんあつめていて、スカートを履く。

男の子の友達もたくさんいる。

ほんとに誰かと喧嘩したことないの?イライラしたりしないの?と聞くとわたし怒るの下手だから、と笑う。

 

対してわたしはというと、

すっぴんで外になんか出られず、情報機器依存、男とは友達になれず女友達は少なく濃すぎる。手放しできょうは楽しかったと思える日なんて1年に何回あるんだろうと思うほど年中調子が悪い。

 

同じ遺伝子を引き継いでもこれだけ違うものに育つか、というくらいなにも似ていないが、私たちは仲が良い。面白いなと思う。

 

昔は彼女のことが嫌いで、彼女もわたしのことが嫌いだった。

怒られていると快感で、ざまあみろ、と思った。

なんで妹なんかいるんだ、なんでこの人が姉なんだと思いあって、それはこの先ずっと変わらないと思っていたけれど、いつの間にか仲良くなっている。なくてはならない存在になっている。不思議なものだ。

 

そんな彼女は日付が変わってバタバタと防音室に飛び込んで行った。

彼氏と電話しているときのあなたの甲高い笑い声は嫌いです。

少しの嫉妬。

もう終わったからどうでもいいか。

お誕生日おめでとう、産まれてきてくれてありがとう。

17歳、わたしの1年は華々しくなんかなかったけど、彼女の17歳はきっとちゃんと綺麗だと思う。